新第三紀から産出した多鼻類の化石
新第三紀層から発見された鼻行類と思われる動物の化石。
しかし、この化石は、ハイアイアイ群島以外からの産出、
そして鼻行類の大きな2つのグループである単鼻類と多鼻類の中間的な特徴をもっているなど、
これまでの定説に大きく影響を与えるものだった。
1981年にホンジュラスの首都テグシガルパで開催された国際未分類古脊椎動物学会(SIUPA, Society of International Unclassified Palaeobiology)第16回大会で、鼻行類、もしくはそれに近縁の動物の化石が報告されていた。
この化石はアマチュア研究家によってコロンビアの新第三紀層から発見されたもので、写真は印刷物からの引用の為にスケールが入っていないが、全長は約270mmである。強大な前肢に対し退化傾向の後肢、躯に対して大きな頭骨と、鼻部から出ている4つの突起などから、鼻行類、特に鼻歩類に属する多鼻類ではないかと考えられている。鼻行類はハイアイアイ群島でのみ進化したものと思われていたので、大陸から化石が発見されたことによって鼻行類がハイアイアイ群島以外にも存在した可能性が指摘されたが、その可能性は低いと言える。なぜならば、この鼻行類の化石は、海棲から汽水棲の軟体動物化石を多く含む黒色の頁岩層から産出したからだ。ハイアイアイ群島とコロンビアの地理的な関係を考えると、赤道反流に乗って流されてきた遺体であると考えるのが適当である。通常、これだけの距離を遺体が崩壊せずに移動することは少ないが、おそらく材木のようなものとともに漂流したために、奇跡的に原形をとどめた遺体がコロンビア(現在とは多少位置は違うが)の三角州地帯に到達したのであろう。
ところが、この化石には、もしこれが鼻行類だとしても奇妙な点がある。それは、前述した通り、この化石の鼻部に突起がある点である。多鼻類は、4個、8個、32個の鼻器を用いて、歩行を含む様々な行為を行うが、鼻器は骨格を持たず、その運動は海綿体の膨張と鼻腔内空気圧によって制御されるものである。
この問題は、鼻行類の進化に対する解釈に非常におおきな影響を与える。多鼻類は鼻に骨格をもたず、その構造が単鼻類とは大きく異なるため、単鼻類とは別に進化したと考えるのが現在の定説である( Stulten, 1948ほか)。つまり、多鼻類が単鼻類から進化したのではなく、多鼻類と単鼻類は、より原始的なグループからそれぞれ別に進化したということだ。
しかし、この化石は、複数の鼻器に骨格を持つと言う両者の中間的な特徴を備えている。これは、つまり、以下のような2つの仮説のどちらかを導くと言える。
1.多鼻類は、単鼻類から派生したのであり、初期には鼻器に骨格を持っていたが、分化がすすむにつれ退化した。
あるいは、
2.(1941年当時)現生の単鼻類、多鼻類の他に、もうひとつの亜目レベルの分類群が存在した。
いずれにせよ、こういった研究はデータの量がそのまま仮説の信頼度に反映されるので、今回のこの1個体のみから判断できることは限られているが、鼻行類については、まだまだ我々の知らないことが多いと言うことは、改めて認識しなければなるまい。現在は否定されている、D'Eppが試みた鼻歩類型の単鼻類に多鼻類の起源を求める解釈は、そのまま真実をあらわすことはないとしても、まったくの見当違いではないのかも知れない。
人間の進化系統についてさえ、完全に解明されてはいないのだから、発見されて20年しか本格的な研究がなされていない鼻行類の進化について、定説を覆す事実があったとしても、それはなんら不思議なことではない。最近、また少しずつ進み始めた鼻行類研究にとって、この化石は貴重な資料となるだろう。