Nasobema Lyicum
モルゲンシュテルンオオナゾベーム
Family Nasobemidae
Genus Nasobema
(ナゾベーム科 ナゾベーム属)
ハロルド・シュテンプケによって鼻行類が広く世にに知られるようになるおよそ50年前、つまり19世紀の終りに、ドイツの詩人クリスティアン・モルゲンシュテルンが著した有名な一遍の詩がある。
たくさんの鼻で立ってゆったりと
ナゾベームは歩く、
自分の子どもたちをひき連れて。
まだブレームには載っていない。
まだマイヤーには載っていない。
そしてブロックハウスにも。
それは私の竪琴から
はじめてこの世にあらわれた。
それ以来(上に述べたとおり)、
たくさんの鼻で立ってゆったりと
ナゾベームは歩く、
自分の子どもたちをひき連れて。原詩 Auf seinen Nasen schreitet
einher das Nasobem
von seinem Kind begleitet.
Es steht noch nicht im Brehm.
Es steht noch nicht im Meyer.
Und auch im Brockhaus nicht.
Es trat aus meiner Leier
zum erstenmal ans Licht.
Auf seinen Nasen schreitet
(wie schon gesagt) seitdem,
von seinem Kind begleitet,
einher das Nasobem.
シュテンプケによる報告のはるか以前に、どのようにしてモルゲンシュテルンが鼻行類の存在を知り得たのかは、今日でも謎に包まれている。だが、鼻行類は確かに存在していたのだから、何かの特別な経緯でその存在を見たか、あるいは聞いたかしたのであろう。鼻で歩く動物を偶然に想像したにしては、この詩はNasobema Lyricumの生態をあまりに的確に描写しているからだ。
このナゾベーム類は、多鼻類に属する。多鼻類は、その名の通りに多くの鼻器をもつことを特徴としている。また多鼻類の鼻器は、単鼻類(ムカシハナアルキなど)の鼻器とはまったく違う構造を持っており、また発生の過程にもいくちかの重大な違いがあることから系統的には、単鼻類は多鼻類の祖先ではないとされる。つまり、より原始的な祖先から、かなり早い段階で多鼻類と単鼻類は分化していたということになる。
多鼻類はさらに、鼻器が4個、6個、38個という3つのグループがあり、ナゾベームはこの中では比較的原始的なもとと考えられている。ナゾベームの鼻器以外の特徴に目を向けると、まず、ものを掴むための前肢はよく発達し、代わりに後肢は退化して事実上機能を果さない。後肢に代わって前肢を補助するのは扁平した長い尾であり、この尾は結腸内に圧搾されたガスにより勢い良く運動させることが可能である。この尾を使ってナゾベームは果実を採取して摂食する。この点は、鼻行類が本来食虫性であることからすると非常に特殊な進化をしたと言える。
また、尾と同様に鼻器もその運動に空気圧を利用して運動する。ただし、鼻器の場合は空気圧とともに海綿体の充血による硬化もその運動に重要な役割を果している。
鼻器の運動メカニズムは非常に複雑であるため、詳しくはシュテンプケの総説、またはその引用文献を参照されたい。
ナゾベームは高い社会性を持ち、つがいは非常に睦まじい。また、雌には喉袋があり、生まれた仔はその袋でしばらく過ごす。仔は1度に5仔産まれるのが普通なので、仔が成長して歩くようになると、まさにモルゲンシュテルンが詩に謳ったような光景が見られたのだろう。ちなみに、幼体では前肢の発達と後肢の退化は少なく、成長するに従ってこれらはナゾベームとして特徴的な形態へと変化していく。この点では、個体発生が系統発生を繰り返すという原則を忠実に再現していると言える。ナゾベームの成体は最大でおよそ1mにも達し、鼻行類のなかでも際立って大型である。これは、昆虫食から果実色へと栄養的な進化を果したことと関係が深いと推察されている。
ハイアイアイ島の原住民であったフアハ=ハチ族は、春分と秋分の日の儀式では、ナゾベーム(彼らはホーナタタと呼ぶ)を葉で包んで焼いて食べる。ただし、この儀式での食事は特別で、彼らはホーナタタを神聖視しており、これ意外の時にナゾベームを狩ることはないそうだ。
![]()